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研究成果

研究代表者 大磯 ユタカ
名古屋大学大学院医学系研究科
病態内科学講座糖尿病・内分泌内科学 教授

平成20年度から23年度の3年間にわたり、新組織として発足した間脳下垂体機能障害に関する調査研究班は、抗利尿ホルモン(バゾプレシン)分泌異常症、プロラクチン分泌異常症、ゴナドトロピン分泌異常症、先端巨大症、クッシング病、下垂体機能低下症、下垂体性TSH分泌異常症を指定研究課題とし、さらに関連する病態を含め1研究班としては非常に広範囲にわたる病態群を対象にそれらの発症機構、診断、治療、長期予後などについて研究を進めてきた。多数の間脳下垂体疾患に関し個々の疾患の研究を深化させることが重要であることは言うまでもないが、この領域の網羅的研究を進めることの重要性についてもあらためて認識し、班研究として横糸となる横断的重要課題を設定し、領域別個別研究と併せ推進することにより効率的で意義のある難病疾患研究を遂行することを基本目的とした。重要課題研究には、1)新規間脳下垂体疾患の探索、2)自己免疫が関与する可能性のある各種間脳下垂体疾患の病態解析と診断マーカーの開発、それに基づく疾患概念の再構築、3)下垂体疾患の新規診断・治療法の開発などを中心とし、さらに疾患の早期発見、高水準で良質な治療を有効かつ安全に遂行できるよう当該疾患の診断・治療にかかわる指針を3年度にわたり経年的に大幅改訂した。また各種疾患の治療法別長期予後評価のための独自疾患データベースの維持と解析、診断・治療の手引きの更新、社会連携活動として未承認薬の臨床導入、研究成果公表のための公開セミナーの開催などを企画・実施した。これらの研究成果の概要としては、1)新規間脳下垂体疾患の発見、疾患概念の構築に至ったものとして、抗PIT-1抗体症候群を世界で初めて報告し、成人期以後に発症した中枢性TSH、GH、PRL分泌低下症が下垂体特異的蛋白転写活性因子であるPIT-1 に対する抗PIT-1自己抗体に原因することを明らかにし、2)自己免疫が関与する可能性のある各種間脳下垂体疾患の病態解析と診断マーカーの開発として、臨床診断に必須であるためこれまで古くから世界的にその探索が行われてきたものの発見に至っていないリンパ球性漏斗下垂体後葉炎(LINH)の自己抗原探索と診断マーカーの確立に向けた研究をプロテオミクスの手法を駆使し網羅的に実施し、76kDの蛋白をその候補に特定し、マーカーとしての臨床応用への展開に至っている。3)下垂体疾患の新規治療法の開発については、SIADHの標準治療法の設定に向けた検討を行い、ナトリウム補正に随伴し発症する危険性のある橋中心髄鞘崩壊に代表される浸透圧性脱髄症候群の回避を目的としたミノサイクリン併用療法の有効性の証明と臨床応用を行った。さらに研究成果の社会還元を目的とした公開研究セミナーの定期開催し、また15年ほど前からわが国への導入を働きかけてきた中枢性尿崩症治療の世界的標準薬となっているデスモプレシン錠剤(溶解錠)の日本における開発を目的とし患者会とも連携の上、「医療上の必要性が高い未承認の医薬品又は適応の開発」制度にあらためて申請し開発認可を得ることができ現在治験が進行するなど、研究班の研究活動が着実に社会へと還元されつつある。
     
 一方、領域別の個別研究としては各対象疾患の病態解析、発症予防、早期発見による重症化・遷延化の防止、低負担の治療法開発によるQOL改善などを目的に研究を実施した。具体的研究課題としては、バゾプレシン関連では家族性中枢性尿崩症モデル動物でバゾプレシン遺伝子発現調節の検討を進め、またナトリウム負荷による多尿の進行を認め、小胞体ストレスの関与を明らかにした上で中枢性尿崩症進展予防に食塩コントロールが有用であることを示した。またSIADHの治療随伴性脱髄の発症・進展予防の基礎研究を行った上で標準治療法の設定目的で臨床治験に着手し症例を集積中である。さらに視床下部障害に基づく高ナトリウム血症の発症機構の解析を行い、安全な治療開発に向け基礎データを蓄積した。
成長ホルモン(GH)関連では、GH産生腺腫の自発開口分泌と病理像の関連、gsp変異とMLL/p27Kip1経路の意義、GH産生腺腫におけるプロレニン受容体の意義などの基礎的検討の他、GH産生下垂体腺腫のサイトケラチン染色性によりオクトレオチドに対する反応性の予測、オクトレオチドLARの治療成績、GH測定の標準化が適正診断に与える影響の検討、手術後治癒と判定されたGH産生腺腫患者におけるGH分泌能の推移、先端巨大症における内頚動脈IMTなどを用いた動脈硬化進展の把握とその因子解析、成人GH分泌不全症(GHD)患者におけるGH治療前後のQOL調査の施行、GHD患者における肝機能障害とGHの治療効果に関する検討、GH欠乏がメタボリック症候群を発症させる機序の詳細などの研究を進め、診断・治療指針の大幅改訂につながる成果ともなった。
     
ACTH関連では、レプチン・CRHダブルノックアウトマウスの表現型解析、レチノイン酸受容体(RAR)によるPOMC遺伝子発現における転写因子NeuroD1およびTpitの役割、Cushing病と臨床上鑑別がきわめて困難である異所性ACTH産生腫瘍の病態の相違を明らかにする目的でIKZF1発現を解析しその亢進を認め、転写因子の発現の違いが病態形成に重要な意味を持つ可能性を明らかにし、またCrooke cell adenomaの臨床病理学的検討によりMIB-1index、p53、ソマトスタチン受容体サブタイプなどの指標を組み合わせることにより治療抵抗性の腺腫に対する新しい治療導入への展開につながる成果を得、Cushing病モデル動物におけるインスリン抵抗性発症機構の解明など基礎的研究を進める一方、コルチゾール測定値標準化と測定誤差を考慮したデキサメサゾン抑制試験によるCushing病診断の検討、Pre/sub-clinical Cushing病の唾液中コルチゾール測定を用いた診断基準の策定し、さらにCorticotroph hyperplasiaによるCushing 症候群の解析、小児におけるGHRP2負荷試験のHPA axisの評価などCushing病患者あるいはACTH分泌異常症患者の診断・治療法選択上の指針を提示した。
プロラクチンの領域では、プロラクチン産生腺腫からのプロラクチン過剰分泌機構について解析する目的で二光子励起法を用い下垂体プロラクチン細胞からの顆粒分泌を可視化し解析し種々の病態解析に今後広く応用できることを明らかにした。また、高プロラクチン血症の新たな病因であるマクロプロラクチン血症について、日本人におけるマクロプロラクチン血症の頻度とその病態について検討し、マクロプロラクチン血症が健常成人のスクリーニングで3.68%、高PRL血症292人のスクリーニングで15.1%と高頻度に認められ、今後臨床診断を進める上で重要な留意点となる成績を得た。また高プロラクチン血症を惹起する各種薬剤の比較検討を行い、その結果問題となる薬剤の添付文書改訂などの作業を行った。さらに非浸潤性プロラクチン産生下垂体腺腫に対する内視鏡単独経鼻的手術による被膜外摘出の治療成績を検討し、今後の治療の選択肢を広げた。
ゴナドトロピン関連では、ヒト下垂体ゴナドトロピン産生腺腫におけるホルモン産生のエピジェネティクス制御機構の検討を行い、LHβプロモーター領域のメチル化がLH発現抑制に重要であることが明らかとなり、また、多嚢胞性卵巣症候群診断におけるLH、LH/FSH比の基準値設定を行い診断の精度向上を高めることが出来た。
長期予後の等関連研究では、間脳下垂体特定疾患患者の臨床像について、一つは班会議関連研究として独自に運営している間脳下垂体疾患データベースによる長期予後調査を継続実施し、先端巨大症89例、プロラクチノーマ58例、下垂体機能低下症123例、バゾプレシン分泌低下症38例など計300例以上の登録症例を解析し、主観的健康観ではバゾプレシン分泌低下症では低い傾向が強いことなど疾患特異性があることが示され今後の治療方針の決定の上で参考となる成績を得た。
    
以上はこの3年間にわたる当研究班の研究の中の一部に過ぎないが、世界初となる新規病態の発見、安全で有効な下垂体疾患の治療法の臨床展開などを含め医学、医療および社会に還元できる数多くの成果を得たものと考える。
    
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